4つのテスト
ロータリアンは自己の日常の家庭生活においても、職業生活や社会生活においても、また、 国際的な問題に直面した場合にも、この4つのテストを常に意識しながら行動しています。
四つのテスト その由来をひもとく
ダレル・トンプソン(米国カリフォルニア州モローベイRC)
THE ROTARIAN 1999年10月号
ロータリーの友2000年1月号::掲載
ロータリーの友2003年10月号再掲載 より一部抜粋
今から60年以上も前の大恐慌のさなか、一人のロータリアンが4項目からなる簡明な倫理指針を考案しました。この指針は、窮地にあった彼の会社を救うのに役立ったのです。この指針が表現していた内容や信条はまた、ほかの多くの人たちに対しても、倫理的羅針盤を提供することになりました。やがて、国際ロータリーによって採用され、広く知れ渡ることになったこの四つのテストは、今日では、ロータリーの基本理念の一つとなっています。今世紀におけるロータリーの最も素晴らしい声明の一つと言ってもよいでしょう。
創案は七つのテスト
この四つのテストの創案者であるハーバート J.テーラー(ハーブ)は、やり手で卓越したセールスマンであり、人の上に立つ人物でした。ハーブは行動家で、信仰心が厚く、道義を重んじる人物でした。1932年、ジュエル・ティー社の次期社長候補であったハーブは、破産寸前状態にあったシカゴのクラブ・アルミニウム社の再建を依頼されました。調理器具メーカーの同社は、総資産額を40万ドル上回る負債を抱え、倒産の瀬戸際にありましたが、ハーブはこの難事業を引き受け、危機にひん瀕した同社に自らの運命を託したのです。彼は、ジュエル社を辞め、これまでの給与の8割減という収入でクラブ・アルミニウム社の社長に就任しました。しかもそのうえ、運営資金に充てるため、自己資金6,100ドルを同社に投資したのです。
信仰心の厚いハーブは、同社を建て直し、大恐慌下の沈滞ムードを払拭(ふっしょく)するための手段として、社員たちに倫理的価値観の目安となる簡潔な指針を提供すべく、神の啓示を求めて祈りをささげました。 社の倫理訓について構想をめぐらせたハーブは最初、およそ100語からなる文章をしたためましたが、これは長すぎると判断しました。そこでさらに推敲(すいこう)を重ね、それを7つの項目にまとめたのです。四つのテストは当初は、七つのテストだったのです。しかし、これでも長いと考えた彼は、それを自問形式の4項目にまとめ上げ、それが今日の四つのテストとなりました。
難局に挑んだ四つのテスト
四つのテストは、徐々に同社のあらゆる面における指針となっていき、ディーラーや顧客、そして従業員の間に、同社に対する信頼と好意が生まれることになりました。四つのテストは、社風の一部となり、やがて、クラブ・アルミニウム社に対する信望は高まり、財政の改善に寄与することとなったのです。
ある日のこと、販売部長が、調理器具5万点の注文が取れるかもしれないと発表しました。売り上げは低迷状態にあり、会社は依然として倒産の危機から脱していませんでした。最高幹部の人たちは、明らかにこの販売の機会を逃すことなく、商談が成立することを望んでいました。しかし、一つの問題点がありました。販売部長が聞いたところでは、注文主である業者は商品を値引きして販売したいというのです。「これでは、これまでわが社の製品を地道に宣伝し販促してきてくれたディーラーに対して不公平となります」というのが販売部長の意見でした。結局、この注文は断ることになりました。その年には、ほかにいくつか厳しい決断が下されましたが、これは、その中でも最も苦渋に満ちた決断の一つでした。この取引を行っていれば、疑う余地もなく、同社が営業活動のよりどころとする四つのテストを嘲笑(ちょうしょう)することになったでしょう。
1937年までに、同社の負債は完済され、その後の15年間では、株主に対して100万ドル以上もの配当が支払われました。また、同社の純資産は200万ドル以上に達しました。
いかがですか? これでも、あまりに理想的すぎて実社会には向かない、とお考えですか? 四つのテストは、ビジネスという厳しく、変転きわまりない世界で生まれ、経済界が経験した最も過酷な時代の中で、厳密な試験を経てきたのです。それは、実業界という競争の場で生き残ってきたものなのです。
1942年、当時の国際ロータリー(RI)理事のシカゴのリチャード・ベナー氏が、ロータリーもこのテストを取り入れるべきだとの提案をしました。RI理事会は、1943年1月にベナー氏の提案を承認し、四つのテストを職業奉仕プログラムの一つの構成要素としました。もっとも、このテストは、今日では四大奉仕部門のすべてにおける不可欠の要素として認識されています。 ハーブは、ロータリーの創立50周年記念にあたる1954-55年度、RI会長に就いた時、四つのテストの著作権をRIに移譲しています。
今こそ必要なのは倫理的誠実さ
1930年代に誕生して以来、60年以上の歳月が過ぎ去ったこの現代社会では、ある人たちが批判するように、四つのテストは、その有効性を喪失してしまっているのでしょうか? それとも、変化のテンポの速いこの時代においても、事業や専門職に携わる人たちの指針として機能するに足る洗練さを保持しているのでしょうか?
真実かどうか―真実は不変であり、時代を超越するものです。真実は正義なくしては存在し得ません。
みんなに公平か―顔を突き合わせてとは言わないまでも、腕を伸ばせば届くような所で、激しくやり合うビジネス手法に代わり公平さを取り入れたビジネスは、お互いの関係を傷つけるよりも、その関係向上に役立ってきました。
好意と友情を深めるか―人は生まれながらにして、他者と協力して生きていく存在であり愛情を示すことは生来備わっている本能です。 みんなのためになるかどうか―この項目は、食うか食われるかを原則とする無慈悲な競争を排除するものであり、それに代わって建設的で創造的な競争を導入するものです。
四つのテストは国家という枠を超えたものであり、国境や言葉の障壁を超越するものです。そこには、政治や独断や特定の信条は介在しません。一つの倫理規範としての存在以上である四つのテストは、いかなる形であれ、人生を成功に導くための要素を含み持っています。それは今日の社会でも有効性を保持し、かつ実効性のあるものなのです。
最終的なテストは、実際に行動することにあります。著名な心理学者であるウィリアム・ジェームズ(1842~1910年)は、「真実が意味するところの究極的なテストは、それが指示あるいは示唆する行動である」と、言っています。今日のロータリーの中核には、倫理的卓越性を使命とする四つのテストが存在します。人類は、共に繁栄することができるのです。現代のビジネスは、誠実かつ信頼のおけるものであり得るのです。人々は、お互いを信じ合うようになれるものなのです。
現代社会が今いちばん必要としているものは倫理的誠実さであると言ってもいいでしょう。四つのテストは、人々が価値ある目標を追い求める際の指針として活用できます。その目標とは、友人を探し選び、その友人関係を維持すること、周りの人たちと友好関係を築くこと、幸福な家庭生活をつくりあげること、高い倫理的・道徳的基準を設定し身につけること、自ら選択した事業や専門職で成功を収めること、より良き市民となり、次の世代にとっての良き手本となること、といったことです。
簡潔さの中に多くが語られ、感動的なまでに力強く、実のある成果を必ずもたらすこの四つのテストは、緊張と混乱と不確実性に満ちたこの世界のただ中に、清新で明るさにあふれた未来展望を与えてくれるのです。